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今年で誕生20周年を迎えるセロー
間口が広く奥深いからこそ
ビギナーからベテランまで
多くの人たちに長く愛されてきた
今回はその、過去から現在までの歴史を
ひもといてみよう |
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80年代から二輪市場を席巻し始めたレーサーレプリカ化は、オンロードスポーツだけでなくオフロードモデルにまで波及した。モトクロッサーの直接的なレプリカイメージが強い2ストロークマシンはいうにおよばず、エンデューロ人気に後押しされるかたちで、4ストロークマシンもレプリカの度合いを強めていた。ハードライディングにも対応する走破性を得るため、前後サスペンションのストロークは次第にその長さを増し、結果的に車高はどんどん高くなっていった。
足つき性は悪くても、スポーツ性の高い走りを許容してくれるほうがいい……レース指向の強いユーザーのそうした意見は、見事に反映された。だがいっぽうでは、林道ツーリングを楽しんだり、オフロードごっこで遊びたいと願うユーザー、とくに初心者や女性を拒絶する結果を招いた。そんな最中にセロー225は登場した。
トレールモデルの原点に立ち返って開発されたというボディは、モトクロッサー風のアグレッシブなマシンを見慣れた目には、違和感を覚えるほど穏やかで優しいデザインが施されていた。しかも、フロント225mm、リヤ190mmとけっして大きくはないアクスルトラベルもあって、シート高は810mmという低さを実現。さらに、XT200をベースに223ccまでスケールアップした空冷4スト単気筒エンジンを心臓部に据えながらも、125ccクラス並みの102kgという軽車重も実現していたのだ。
ハンドル切れ角51度、後退したステップ、そしてヘッドライト下に装着されたスタンディングハンドルなど、どこかトライアルマシン的な要素を併せ持つ独特のモデルだった。そんな異端でありながら、マウンテントレールと名付けられたセロー225は、じつに多くのユーザーに受け入れられたのである。
軽量・コンパクトで足つき性もいい。そんな取りまわしの良さは、興味はあってもいまいちオフロードに踏み込むことができないでいた女性たちの食指を動かした。強烈なパワーはないが中低速トルクのあるエンジンは、トコトコ走りたい女性の指向にも合致。「自分にもオフロードバイクが乗れる」と自信を持たせる扱いやすさが、男性のオフロードビギナーも巻き込んで、セローをヒットさせたのである。
所詮は女の子向けのバイクだと揶揄する声も聞かれたが、そういってはばからないライダーのなかで、果たしてどれほどのひとがセローの持つポテンシャルを100%引き出せるというのだろう? 獣道やトライアル的な走り方を要求される場所をスムーズにクリアできるひとがいったいどれだけいるだろう? ハイレベルなテクニックを有するライダーをも満足させる性能がありながら、ビギナーをも受け入れる、そんな懐の深さがセローにはあるのだ。
ともあれ、セロー225は多くのオフロードファンを排出した。それぞれのレベルに適した走りができる、ひいてはそれがライディングの楽しさにつながる。そんな当たり前のことを再認識させたのだ。
セローはその後、フロントサスペンションに減衰力調整機構を装備したり、キャブレターを変更するなどのマイナーチェンジを毎年のように行い、ユーザーの要求に応えていった。そして89年に登場のモデルからは、ついにセルスターターを装備。セローユーザーを一気に拡大させることに成功したのである。
90年代に入ってもマイナーチェンジしながらセローは進化を続けた。93年には別体サブタンク付きリヤサスやリヤディスクブレーキなどを採用。95年にもシートの快適性向上をはじめとした8項目に手を加えている。さらに97年、それまで8.8Lだった燃料タンクを10Lに拡大。チューブレスリヤタイヤも採用された。そして2000年からは、環境への対応をはかりエア・インダクション・システムを導入するに至った。
このようにセローは、つねに時代のニーズに応えるかたちで進化熟成し、20年にもおよぶ歴史を刻んできたのである。その間にはライバルモデルも出現した。同様のコンセプトで、しかも性能では上まわる実力を有しているライバルである。だが結局は、セローを超えることはできなかった。これは、見た目やスペックではなく、セローというブランドが確立していたことのひとつの証だ。言い換えれば、セローの持つ個性が多くのファンを創出したのである。
2005年、セロー225は新たにセロー250として生まれ変わった。エンジンを拡大しただけではない。すべてを一新したフルモデルチェンジ、いや、ニューモデルとしての誕生だ。都会的なイメージさえ漂わせるニューセローは、果たして先代モデルのような神話を作り出せるのか。時代に適応して答えが吉と出たとき、21世紀のセローワールドがまた始まるはずである。 |
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