押し引きは軽々ではないけれど、近年の大型ツアラーよりは気軽に動かせるし、前輪が2つだからといって、乗り方のアジャストは必要ない。僕のナイケンの第一印象は、“普通のバイク?”だった。ただし、そう思ったのは最初だけで、以後は感心の連続だった。
僕がナイケンで最初に感心したのは、不慣れ、あるいは初めて走る峠道でのコーナリング性能である。フロントに絶大な安定感が備わっているこのバイクは、事情を把握していない峠道でも、臆することなく、思い切ったアクションができてしまう。おそらく、ツーリングという状況なら、スーパースポーツやネイキッドより、速く、楽しく走れるだろう。また、環境適応能力の高さも特筆すべき要素で、ナイケンは雨が降っても風が吹いても、路面に落ち葉が積もっていても、環境の変化を楽しみと捉えて、淡々と走って行ける。
それに加えて、車体の姿勢変化の穏やかさも、このバイクを語るうえでは欠かせない要素だ。急激なアクセルオンでリヤが滑っても、ハードブレーキで車体がジャックナイフ状態になっても、ナイケンは怖さを感じない。また、MT-09がベースとは思えないほど従順で優しく、それでいて直列3気筒のトラクションが堪能できるエンジンや、座面がフラットで疲れ知らずのシート、横風に対する強さや乗り心地のよさにも、僕は大いに感心した。いずれにしても現在の僕は、フロントに2輪を備えるLMW:Leaning Multi Wheelの美点を、しみじみ噛みしめているのだ。
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