アイドリング時の静かさ、取りまわしの重さ、見た目のデカさに、少し不安になった。VFRは、86年型VFR750Fから続く、スポーツ性能と旅性能の高次元融合を特徴としたブランド。どんなに長距離移動が快適でも、走りが鈍重だったら、それはVFRではないのだ。しかし心配事は、すぐ解消された。
ライポジは、見た目からは想像できないほどコンパクト。快適だけどスポーツにも適した設定だと、またがった瞬間に確認できた。ちなみに、国内版はローシートが標準装備なので、足つき性も悪くない。
重さも、走り出せば気にならない。ハンドリングは軽快そのもの。重い押し歩きのことなど、すっかり忘れてしまった。
しかも、軽さと同時に安定感と“わかりやすさ”もあるから、峠道をハイペースで走っても、ラインがビシッと決まる。もちろん、高速走行時の安定性や安心感も高い。
そして肝心のエンジンだが、こちらは低回転域と中高回転域で二面性を楽しめる仕様だった。
アイドリング時の驚くほどの静かさは、低回転域での走行時にもそのまま持続される。これなら、早朝や深夜、住宅街などを走り抜けるときに気を使うこともないだろう。
ところが、5000回転を超えると、V4独特の“デュロデュロ”というエンジン音が一気に大きくなり、排気量らしいトルクとパワーが湧いてくる。
国内仕様は、欧州仕様に比べて、馬力やトルクがだいぶ抑えられているものの、それを補うべく、減速比が見直されている。そのため、1速は約100km/hでレブリミットに達するほどショートな設定。これが効いて、スタートダッシュも悪くない。いっぽう2速以上はワイドな設定(6速の100km/h時、約3200回転)で、高速道路をとても静かに巡航できる。
全体的に上質で、VFRらしいスポーツさとロングラン性能を誇り、静かにもアグレッシブにも乗れる。新型VFRの国内版は、そのブランド名に恥じぬスポーツツアラーだった。
|