快適にしてスポーティ。そして、ゆったり感のなかでも楽しめるエキサイティングさ。そもそも背反する要素である快適性とスポーツ性を、両立させてきたVFRシリーズ。
その初代750Fが登場したのは86年のこと。当時のスーパーバイクVFR750Rのエンジンを搭載し、ネーミングの末尾のFが示すようにオールマイティスポーツのコンセプトを実現したモデルだった。その後、4年毎にフルモデルチェンジを繰り返してきたVFRだったが、RVFベースの781tエンジンに、コンバインドABSを組み合わせた98年モデルを最後に進化がストップしていた。
そのVFRが、8年ぶりにVFR1200Fとして、復活を果たした。
エンジン排気量を拡大し、後輪駆動をシャフトドライブにするなど、ツアラー色を強めた新しいVFR。だが、いざ走り出してしまえば、VFRの伝統を裏切ることもなく、快適性能を向上した分だけ、スポーツ性も向上させてきた。
少々、大柄に見える車体だが、実際に跨がると小柄な身体にもフィット。足着き性も良好だし身長161cmでも、跨ったままサイドスタンドの出し入れも可能なのである。
そして走り出しても、快適志向の巨体に乗せられているといった感は少なく、むしろライダーの感覚が、マシンの隅々にまで届くようなスポーツバイク的なフィーリングが強い。
特にスロットルは、扱いやすく、かつダイレクト。ピボットがオフセットされたシャフトドライブ機構が、チェーンドライブみたいな感覚でリヤにトラクションを伝えてくれる。コンバインドABSも、前後個々に作動させたような自然な操作感で好感が持てる。
エンジン特性はツアラーらしく超フラットで、どこからでもまろやかに力強く加速。そのくせ、スポーツする気分でスロットルを開けていくと、高回転域に向かってトルクの立ち上がり感が明確に感じられる。
ハンドリングは、無類の安定性を発揮するいっぽうで、タイトなコーナーでも車体の大きさを感じさせず、素直に忠実に狙ったとおりに走り抜けていく。
そして、この快適性とスポーツ性を、さらに高次元化させているのが、デュアル・クラッチ・トランスミッション(DCT)だ。
このDCTは、AT/MTの切り替えが可能。スロットル操作だけで、理想的なギヤに自動変速されるATでは、エンジンが常に低中回転域に保たれるドライブと、コーナーを攻める走りも可能にしてくれるスポーツの2つのモードを用意。
いっぽうMTは、左グリップに装備されるシフトスイッチを駆使して、スポーツ走行を楽しむことができる。4輪でいうところのセミオートマチックミッションは、有段でシフトタイミングを把握できるのでダイレクト感もある。
バイクの近未来形に触れたような気分になれる新型VFRなのである。
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