


「機能美」を辞書で調べると、“建築や工業製品などで、余分な装飾を廃して無駄のない形態・構造を追求した結果、自然に表れる美しさ”と記されている。SSのスタイルを語るうえで、これほど最適な言葉はないだろう。もちろんオートバイの設計思想は各車各様で、絶対的な速さを追求しないモデルの場合は、“余分な装飾”こそが大きな魅力になるのだが、速さを徹底追求したSSならではのストイックなスタイルに惹かれるライダーは、世界中に数多く存在するのだ。なおSSの車体姿勢は、基本的に前下がり/後ろ上がりだが、それをやや緩和するべく、前上がり/後ろ下がりの方向で前後ショックを調整すれば、本来の運動性能が微妙に失われる一方で、フレンドリーな資質が得られる。


2/4輪の運動性能を示す言葉としてよく使われる、走る・曲がる・止まる。SSはこの3要素を徹底的に突き詰めたバイクだから、ワインディングロードは最高の晴れ舞台になる。もっとも、200ps以上の最高出力が当たり前になった現代のリッターSSの場合、一般道で潜在能力のすべてを発揮するのは不可能だが、低中回転域だけを使って走っても、運動性能の高さは十分に実感できる。ただし、経験豊富ではないライダーが、リッターSSで初めてワインディングロードを走るとなったら・・・。加速中に感じる尋常ではない景色の流れ方や、あっという間に向き変えが完了する旋回性能、そして驚くほど短い制動距離などに、少々戸惑うことになるかもしれない。


最高出力を筆頭とする戦闘力がどんどん向上しているにも関わらず、常用域で扱いづらさを感じない近年のリッターSS。その背景にあるのは、電子制御技術の進化だ。ライドバイワイヤやIMU、レーシングABS、トラコン、セミアクティブサスといった電子制御技術が、“縁の下の力持ち”として支えてくれるから、乗り手は操作に難しさを感じることなく、さらにはミスを恐れることなく、思い切ったライディングができるのだ。また、現代のリッターSSが採用する電子制御技術は、快適性にも大いに貢献。クラッチ操作が不要となるクイックシフターや、状況に応じて特性変更が行えるエンジンモードの設定は、ロングランでもありがたさを感じる便利機構である。

ビギナーには扱いづらい?
リッターSSを初めて乗るにあたって、多くのライダーが厳しさを感じるのは、スパルタンなライポジだろう。オーソドックスなネイキッドと比較すると、ハンドルは低く、シートは高く、ステップは後退している。ではどうして、こういったライポジがリッターSSの定番になったのかと言うと・・・。猛烈な加速と減速に対応するためと、前後輪の接地感の変化をダイレクトに感じるためである。このライポジは、慣れが進めば厳しさは感じなくなるが、どうしても馴染めない場合は、前述した3点を見直すべきかもしれない。なおエンジン特性や前後サスの設定を変更するライディングモードは、初心者の場合は状況に関わらず、最も穏やかなモードを選ぶのが無難だ。

上半身はリラックス
上半身をリラックスさせること。それは車種を問わず、オートバイをライディングするうえでの基本だが、上半身が前傾し、ハンドルに力がかかりやすいSSは、その意識を徹底する必要がある。逆に言うなら、腕に込めた無駄な力がハンドルに伝わってしまうと、SSは本来の旋回性能を発揮できないのだ。ちなみに、グリップを握るものではなく、添えるものと考えると、ハンドルへの無駄な入力は回避しやすい。

