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ウィスコンシン州ミルウォーキーで1903年、ハーレーダビッドソン最初のモデルが誕生した。単気筒エンジンからのスタートだったが、6年後の1909年には45度Vツインエンジンを完成させ、1世紀にわたりその伝統を脈々と受け継いできた。日本への輸出が始まったのは1912年のことだ。
とまあ、さかのぼればいろいろ出てくるけれど、H・Dは歴史のあるバイクメーカーなんだということは理解できると思う。だがそうした諸々の事柄はともかくも、独特のフィーリングを持つVツインエンジンやボディ全体から放たれる存在感が、H・Dを羨望(せんぼう)のブランドとして確立するに至っていることは間違いない。
1989年にHDJ(ハーレー・ダビッドソン・ジャパン)が設立され、国内にも多くのハーレーオーナーが誕生した。今もなお続々とその数を増加させているのは周知のとおりだ。
世界を席巻している日本のバイクメーカーが、足もとの国内市場で販売低迷に苦しむなか、H・Dは着実に販売を伸ばしている。価格的に高価であるにもかかわらずだ。おそらくそれは、性能=価格というかつての図式が崩壊し、モノ自体に対する価値観が変化してきたからだろう。ブランド志向のよし悪しではなく、持つ喜び、走る楽しさといった根源的な特徴を、H・Dは持ち合わせているということなのだ。100年に及ぶ伝統が「本物」を作り出し、そのことを多くの人がわかり始めてきた結果なのかもしれない。
H・Dに乗っていると、まわりの視線を感じることが多い。他のライダーからだけではない。クルマのドライバーや、時として道行く人からも「見られる」ことが多い。照れくさい一方で、ちょっと誇らしく思ってしまうのはボクだけじゃないだろう。たとえば高速道路のサービスエリアで休んでいると、必ずといっていいほど、オヤジ連中が「これハーレーかい?」と話しかけてくる。そこからバイクに乗っていた若いころの思い出話が始まる。'05年モデルのFLSTNソフテイル・デラックスに乗っているときもそうだ。
H・Dというブランドに送られる熱い視線もさることながら、クラシカルで優雅なソフテイル・デラックスのボディに注目が集まる。重厚感のあるたたずまいはもとより、随所に施されたクロームメッキや入念に仕上げられた塗装など、構成する部品ひとつひとつに人の手を通したであろうぬくもりが感じられる。それが存在感を生み出しているのだ。だから、ふっと人目を引きつける。
スタイリングがクラシックなら、体は大きく開くポジションもまた昔風だ。大きな鞍型シートにドッカリと腰を下ろし、前方にあるステップボードに投げ出すように足を乗せる。そして、肩幅より広く腕を伸ばすと、そこにハンドルグリップがあるといった具合だ。偉くもないのに、偉そうな格好で走ると、ちょっとばかり優越感に浸れるから不思議なものだ。しかもそれが、気持ちにゆとりまでもたらす。高速道路で勢いよく追い抜いていくクルマがあっても、心は動揺しない。
搭載する1449ccのツインカム88Bには160km/h超のスピードを持続する力がある。だが、わずかに感じるVツインの鼓動に身をゆだね、ゆったりとどこまでもクルージングしていたい気持ちが、スロットルを大きく開けさせないのだ。厳しい騒音規制をクリアしているため、バリバリとした迫力あるサウンドはない。あまりにも静かで「らしくない」と思う人もいるだろう。しかしそれも、クルージング性に関していえば、プラスに作用しているのだ。
直進安定性のよさはいうに及ばず、ハンドリングも素直で、想像するよりはるかに扱いやすい。ちょっとした取りまわしではさすがに335kgの車重がネックになるけれど、足着き性のよさがカバーしてくれる。最近は日本製のクルーザーも大型化しているので、それらと乗り比べても、否と感じるところはない。
ソフトでしなやかなサスペンションも快適な乗り心地を与えてくれる。路面から受ける衝撃を柔らかく受け止めてくれるので、走行性に及ぼす影響は少ない。ウエットコンディションではとくに、こうした高い安定性が大きな安心感につながる。
H・Dで以前から気になっていたことに、操作系の重さ(硬さ)があった。なかでもクラッチレバーの頻繁な操作は左手に痛みを覚えてくるほどだった。しかし、ここ数年はかなり改善され、ソフテイル・デラックスでもほとんど気にならなかった。それでも日本製バイクのそれと比較した場合、抵抗は少なくない。渋滞のなかを走り続ければつらくはなってくるだろう。
ゆったりとクルージングを楽しむ。そんな使い方をするとき、ソフテイル・デラックスなら優雅でぜいたくな時を過ごすことができる。 |
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