「ネオクラシック」の定義とは?

レジェンドから続く現代のスタンダードモデル

「ネオクラシック」の
魅力を紐解く。

レジェンドから続く現代のスタンダードモデル「ネオクラシック」の魅力を紐解く。

近年になって、世界的な盛り上がりを見せているネオクラシック。もっとも、このジャンルに対するメーカーのアプローチは各社各様で、エンジンやシャシーにコレといった定義はないのだが、常用域を重視したキャラクターは多くのモデルに共通する要素。言ってみればネオクラシックには、現代のスタンダードというべき資質が備わっているのだ。

Photo/Hiromu Inoue
Text/Toshiyuki Sagayama

大激論!?

「ネオクラシック」の定義とは?

ライター ナカムラ

中村 友彦

旧車とネオクラシックが大好きな、二輪雑誌業界25年目のフリーランス。ここ最近のメインの愛車は、1974年型モトグッツィV850GT。

中村友彦VS佐賀山敏行

編集部 サガヤマ

佐賀山 敏行

本誌編集部員。これまで数々のバイクを乗り継いできたが、今は「生けるネオクラシック」ともいうべきヤマハSR400を2台所有。

明確な定義が存在しない不思議なジャンル

佐賀山ネオクラシックの話をするにあたって、まずはこのジャンルの定義を教えてください。たとえば、スーパースポーツならアルミフレーム+4気筒エンジン、アドベンチャーツアラーなら豊富な前後サスストロークが、現代の定義になっているようですが。

中村ないと思いますよ。エンジンは言うまでもなく、フレームもタイヤも前後サスも、バラバラですから。

佐賀山あら・・・。でもジャンルが存在するわけですから、何らかの共通項はあるんじゃないでしょうか。

中村あえて言うなら、キャラクターは常用域重視で、ヘッドライトは丸型、外装のデザインは側面から見た際に水平基調、が多くのネオクラシックに通じる要素ですが、絶対的な条件ではありません。わかりやすい例外を言うと、KATANAはヘッドライトが異形の角型で、デザインは前下がりでしょう。

佐賀山たしかに。そうすると、ちょっとでも旧車を思わせるところがあれば、それはもうネオクラシックなのか。

KAWASAKI
ZEPHYR750

カワサキ ゼファー750

往年のZ1をモチーフとするゼファーは、ネオクラシックの始祖というべき車両で、排気量は400/550/750/1100の4種。いずれのモデルも、スチール製ダブルクレードルフレームに、DOHC2バルブ空冷並列4気筒を搭載。

中古相場:49.9万~438万円

中村ただし、大昔から変わらないスタイルのロングセラー車、スーパーカブやSR、ハーレーの王道モデルをそう呼ぶかどうかは、人によって意見が異なるようです。個人的には、スーパーカブの50と110は違う気がしますが、C125はネオクラシック。

佐賀山ちなみにネオクラシックは、いつから流行り始めたのでしょうか。

中村原点は、1989年から展開が始まった、カワサキ・ゼファーだと思います。あのシリーズの大ヒットで、ほかの国産3社も旧車風ネイキッドを手がけるようになって、海外勢では2001年にトライアンフ・ボンネビル、2006年にドゥカティ・スポーツクラシック、2008年にはモトグッツィV7クラシックが登場しました。

佐賀山そんなに遡れるんですね。僕はてっきり、ここ十年くらいのムーブメントとかと思っていました。

中村本格的な盛り上がりはここ十年、というか、数年くらいだと思いますよ。具体的には、2014年からBMWがRナインTシリーズ、2015年からドゥカティがスクランブラーシリーズの発売を開始したことで、イッキに火がついたんじゃないかと。トライアンフのボンネビルシリーズも、2016年に第2世代に移行してから、販売台数が大幅に伸びているようですし。

タイヤで判別できるキャラクターの違い

佐賀山先ほどの話で定義がないことはわかりましたが、ネオクラシックモデルのキャラクターの見分け方・・・みたいなものはあるんでしょうか。

中村ミドル以上の場合は、タイヤが目安になります。前後17インチは現代のスポーツバイクに近い特性で、フロントが18か19インチの場合は、昔ながらの穏やかさや軽快さを重視する傾向。ちなみにタイヤに関しては、ネオクラシックの盛り上がりで、細身&大径が復権を遂げた感がありますね。1990~2000年代は、太目の前後17インチがオンロードバイクの王道で、細身の18/19インチは古いと見られることが多かったですけど、最近はそういう風潮は希薄になりました。

MV AGUSTA
SUPERVELOCE 800

MVアグスタ スーパーベローチェ800

2020年に登場した、MVアグスタ初のネオクラシックモデル。高めのハンドルとフラットなシートのおかげで、基本設計を共有するF3 800より親しみやすい。

新車価格:249万7000円

佐賀山それはいいことなんですか?

中村個人的にはそう思いますよ。ストリートでは、端っこがなかなか使えない太目の前後17インチより、細身の大径タイヤのほうが楽しい場面が少なくないですから。もちろん前後17インチでも、車体構成やタイヤの特性で、ストリートに適した乗り味は作れますから、一概にはいえないですが。

佐賀山逆に前後17インチのネオクラシックは、見た目は旧車っぽいところがあっても、乗り味はあまりクラシックではない、ということでしょうか。

中村そうでもない・・・かな。前後17インチの車両でも、エンジンが適度に牧歌的だったり、ライポジが昔ながらだったり、ネオクラシックには、どこかフレンドリーなところがありますからね。2月号で紹介したMVアグスタのスーパーベローチェは、その好例です。あのバイクは外観をクラシックテイストにすると同時に、ライポジをちょっとアップライトにすることで、開発ベースになったF3 800と比べると、ずいぶん親しみやすくなっていました。

佐賀山そう考えるとネオクラシックの流行は、僕を含めた普通のライダーにとって、喜ぶべきことですね。たしかに、ネオクラシックはフレンドリーだし、個人的にはこの分野を「現代のスタンダード」と言っていい気がします。

主軸はミドル以上だが小排気車の世界にも波及

佐賀山これまでに中村さんが体験したネオククラシックで、特に印象に残っているモデルを教えてください。

YAMAHA XSR900

ヤマハ XSR900

旧車的な雰囲気は希薄だが、外装に加えてライポジや前後サスを専用設計したXSR900は、開発ベースのMT-09とは一線を画する、フレンドリーな特性を獲得。

新車価格:106万1500円
中古相場:67.6万~189.8万円

中村いい意味で印象に残っているのは、2016年に登場したXSR900です。開発ベースの初代MT-09はとにかくアグレッシブな特性で、相当なエキスパートじゃないと本領は満喫できないのですが、エンジン+シャシーの基本構成はそのままで、ライポジと前後サスを見直したXSRは、格段にフレンドリーになっていました。悪い意味でよく覚えているのは、2014年型RナインTです。といっても、その背景にはほかのフラットツインと同時に試乗したという事情があるのですが、王道路線のR1200GSやR1200Rと比べると、RナインTの快適性は明らかに1ランク下でした。

佐賀山XSR900とRナインTは、どちらも前後17インチですが、細身&大径のタイヤモデルはどうでしょうか。

中村そういわれてハタと気づいたのですが、僕は周囲の友人知人に、細身&大径のネオクラシックモデルをオススメすることが多いです。よく車名を挙げるのは、トライアンフのストリートスクランブラーやモトグッツィのV7シリーズ、車重が軽かった集合マフラー時代のCB1100などですね。

佐賀山ここまでの話はミドル以上がメインになっていますが、ネオクラシックの波は小排気量車にも押し寄せています。なかでも大成功を収めているのは、モンキー125、C125、CT125を擁するホンダですが、タイのGPXやイギリスのMUTTも、徐々にシェアを拡大しているようです。

中村海外では、ヤマハがXSR155、カワサキがW175を販売していますが、日本の小排気量ネオクラシック市場は、ホンダが圧倒的な地位を獲得していますね。ヤマハがミニトレ、スズキがバンバンあたりを現代の解釈で作ったら、おもしろそうな気はしますけど、ホンダに追いつくのは難しそう。

佐賀山ところで、我々はネオクラシックと普通に呼んでいますけど、メーカーは意外にその表現を使っていないんですよ。各車の紹介文を見ると、ヘリテイジやレトロという言葉が多い。

中村海外のメディアだと、モダンクラシック、ネオレトロという表現もよく見かけますね。まあでも、辞書でネオクラシックを調べると、"新古典主義。古典をテーマにして、現代的に創作したスタイル"とありますから、ネオクラシックは間違いではないでしょう。ただし4輪の世界では古すぎない旧車、1970~1980年代車がネオクラシックと呼ばれているようです。

佐賀山 敏行

結論

ルックスは旧車的でも
フレンドリーなネオクラシックは
現代のスタンダードだ!

中村 友彦

※中古車相場価格はグーバイク調べ(2021年2月)。

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