エンジン転用の歴史とその見分け方
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70年代を代表する日本の名機が右のホンダCB750(OHC)と上のカワサキZ1(DOHC)のエンジンである。CBのエンジンはOHCながら胸のすく吹け上がりで多くのライダーを虜にし、70年代後半まで生き延びた。一方Zのエンジンは設計段階から将来的な排気量UPを見込み、オーバークオリティで設計されていた。今なおZのチューニングが盛んなのはそうした恩恵によるところが大きい。
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共通化する目的とは
前ページでは、新たな機構を軸に同型エンジンを異なる車体に搭載する手法の一例を紹介したが、ひとつのエンジンをキャラの異なる他車に搭載したり、基本設計を踏襲したままエンジンを発展させて熟成させていくという手法は、これまでも数多く行われてきた。
共通化一番のメリットは部品を共用できるために設計や生産にかかる初期コストを大幅に抑えられることだ。より数多くの車両に搭載できれば大量生産が可能となり、一台あたりのコストも安くなる。これは完全にメーカーの都合ではあるが、我々ユーザー側にとっては車体価格が抑えられることや、部品の流用が可能になることで、カスタムや補修においてもメリットになる場合があるといえる。
流用のデメリットとは
メリットがある一方でやはりデメリットもある。まずひとつは、ユーザーサイドから『使い回し』と思われてしまう点だ。厳密に言えばそのまま使い回されることはまずないと言って良いのだが、新しもの好きのユーザーにとってはそう映ってしまうことも多い。
現実的な面でのデメリットといえば、大幅なエンジン特性の変更が難しいことだ。エンジン特性の大部分は基本設計に依存するため、ベースとなるエンジンから大きく外れるようなキャラクターの変更が難しく、限度があるのだ。熟成を重ねて行っても、いつかそうした限度という壁にぶつかる。そんなときは新たにエンジンを起こすしかない。つまりそこが新規エンジンが登場する根拠でもある。
【 同型エンジンの見分け方 】
@エンジン外観を比べてみる
ひとことに同型エンジンと言っても、何をもってそう判断するのかはちょっとした観察眼が必要だ。一番カンタンな方法はそのものズバリ、エンジンの外観を見比べること。エンジンの系統に何の知識がなくても、見た目で『似てる』『似てない』の判断は誰にでもつくはず。フルカウル車の場合はエンジン外観を観察することが難しいが、ネイキッドや空冷エンジンならそれらは容易に判別できる。
まず最初に見るべきは、気筒数だ。同型エンジンで気筒数が異なる車両はほぼ存在しない。キャブやエキパイの数を数えるのが分かりやすいだろう。(とはいえ単気筒でも二本出しエキパイ、二気筒でワンキャブという例外もあるが)
次はクランクケースとケースカバーの形状だ。基本的に同型エンジンとは、この腰下部分が共通という場合がとても多い。逆に燃焼室などのヘッド周りは車両キャラによって変更が加わる可能性が高いからだ。これらに注目するとまた違う視点でバイクを楽しめるぞ。
上の二枚の写真を見比べて欲しい。右はオフロード車のXL400R、左はダートトラック車の先駆けFT400だ。見ての通りエンジンの外観はソックリ! 外観での相違点はマフラーの取り回し、キックペダルの有無(FTはケースの上に丸いセルモーター有)、シリンダーヘッドにあるデコンプ(ワイヤーで排気バルブを開いて始動性を良くする機構)の有無くらいだろう。各車のエンジンの特徴的な部分を頭に入れておけば、誰にでも簡単に見分けることができるのだ。 |
Aスペック表でエンジン型式を調べる
ほとんどの車両では、エンジンの外観でその系統を判別することが可能だが、それ以外でも調べる方法がある。それがカタログのスペック表にあるデータを使った方法だ。ひとつ目はエンジンの型式名で判別する方法だ。これは全てのメーカーに当てはまるわけではないが、ホンダ車では容易に判断できる。左の表のように、ホンダのVTシリーズでは80年代のVTから現行VTRまで長らくNC15Eという型式が使われている。外観を見て似てると思ったら、型式を調べてみよう。それが同じならアナタの読みはビンゴ! である。またそれ以外でも判断は可能だ。それがボア×ストローク(シリンダー内径×行程)の値だ。基本的に同じ排気量の同型エンジンならこの寸法はほぼ同じである場合が多い。仮に寸法が違うとしても、その差は数mm以内だろう。特に250ccや400ccの場合は、数値を大幅に変えると排気量区分が変わってしまうため、ほぼ同寸である場合が多いのである。
(例1)エンジン形式
車種 |
エンジン形式 |
VT250F |
NC15E |
SPADA |
NC15E |
VTR |
NC15E |
(例2)ボア×ストローク
車種 |
ボア×ストローク |
BROS |
64.0×62.0mm |
STEED |
64.0×62.0mm |
カタログの『エンジン型式』の欄に(例1)のようなメーカー独自の型式が記載してある。こうした記号と数字の組み合わせは、メーカーごとにある程度の法則を持っているので、それらを調べていくのも楽しいものだ。型式はエンジンにも刻印されているので実車でも確認可能だ。一方ボア×ストロークはスペックを見なければ判断できない項目だが、これを知っていればなんとなくツウな気分になれるかも……。