お客様から「エンジンが掛からない」と電話がありました。車種はFTR223。乗り始めはいつも通りエンジンが始動。その後目的地に到着し、用事を済ませて帰ろうとするとエンジンが掛からないとの事。「ガソリンは入っていますか？」との問いに、「まだ入っていてリザーブに切り替えている」との返答。最近は雨が続いているのでキャブに雨が混入したか、電気系の故障かと疑いながらレッカーに向かいました。

現場に到着し、数回クランキング。掛かる気配がありません。 お店に持ち帰りもう一度始動チェック。すると今回はすんなりと始動しちゃいました。 整備前に症状が改善してしまうと再現がとても難しくなるため嫌な予感がしましたが、少し時間を置くと又エンジンが掛からなくなりました。 まずは簡単なところからプラグの火花チェック。雨の日や湿気が多い日はプラグキャップからのリークが発生しやすく、不具合が多い箇所です。診断工具を使用しクランキング。問題なく火花が力強く飛んでいて点火は問題ありません。

次にチェックするのは燃料系統。シリンダー内へ強制的に混合気を送り込むとエンジンが始動しました。 この事から故障の原因は「燃料系統」である事が判明しました。 キャブのドレーンプラグを緩めてみると少しガソリンが出てすぐに止まってしまいました。この車両のガソリンコックは負圧式ではなくシンプルな自重で落ちてくるタイプ。コックを開いている状態でドレーンからガソリンが出てこないとなるとコックの故障か、そもそもタンクにガソリンが入っていない、タンクが密閉されていてガソリンが降りてこない。などが考えられます。

早速ガソリンタンクを確認。 お客様はまだ残量があると仰っておりましたが、確かに残量はありました。 しかしガソリンの量が極端に少なく、肝心のコック側までガソリンが流れて無かったようです。

ガソリンを追加して始動確認。 無事に始動し、途中でエンジンが止まることもありません。 故障の原因がガス欠といった事が判明し、修理を終えました。

故障の原因はガス欠でしたが、このような事は意外と多い事です。 今回はガソリンタンクが小さくてコックの出口まで目視できましたが、大きな車両の場合、揺すると「ちゃぷちゃぷ」と音がしたり、ガソリンが目視できる場合でも、ガソリンがコックの位置まで達していない場合はエンジンが始動しません。そのまま大掛かりな修理をしようとしたり、電気系統と勘違いして大幅に触ると余計な故障を誘発する可能性が高くなります。 故障を診断する場合は基本を押さえながら、疑った場所は触る前の状態に戻す（例え戻す前が明らかに正常じゃない場合でも、治したいと考えている故障に直結しない問題の場合は、そこを修理するのでは無く、あえて触る前の状態に戻すといった事も大事です）、そして次の所を検査する。といった事が大事になってきます。

そして自分がどこを触ったのかを覚えておく事がとても大事です。 これはもし修理をバイクショップに依頼をする時に、「どこを触ったのか」「何を交換した」のかを正しく伝える事が重要だからです。私たちメカニックは自然に故障する箇所は経験で予測出来ますが、人為的な故障は予想外の結果を招く場合があり、診断に時間が掛かってしまう場合があります。 自分の手で修理をする場合は一つ一つ確かに診断し、確実な修理を心がけましょう。