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濃密な真冬の空気が立ち並ぶ巨木の枝を透過して、冬の柔らかい陽が木漏れ日として差し込む山門前でバイクを止めた。古寺へと続く石段と赤と黒のCBR1000RRが、意外なほどにマッチしていることに少しオドロキながら石段を登った。途中フト振り返ると、石段の前に軒を並べる土産屋で店主が上品に呼び込みをしていた。ときおり、蒸籠に入った饅頭を蒸らす甘い湯気がたなびいて来た。こんな情景もツーリングのひとつの楽しみといえる。
世界の飛ばし屋を熱狂させる、マルチエンジン搭載のスーパースポーツマシン達。このカテゴリーのファンは国内にも多い。それだけに、このジャンルのバイクがツーリングでどうなのか、というところはひとつの気になるポイントでもある。
そこで、国内仕様のCBRと、日帰り小ツーリングに出かけ、ツアラーへの「応用度検査」をしてみた。
スーパースポーツは、ツーリングでのんびり気分を堪能できるのか? あるいは、そのあふれんばかりの走りの本性が、見知らぬ道では乗り手を快楽の瞬間へと導くのか、それとも、ただただあまりの高性能に翻弄させられるのだろうか?
最初の意外性は、潜り込むことを前提とした低いフェアリングでありながら、高速道路で風を効率よく防ぎ、ラクに移動できたことだ。肩、首、ヘルメットへと当たる風は、大きなサイズのフェアリングを持つスポーツツアラーと比較すれば快適性ではやや劣るが、高めのステップ位置と、さほど低さを感じないハンドルバーが作りだす、絶妙なポジションによって、バイクとの一体感が高い。背中を丸めたポジションを維持するのも苦にならない。なにより、バイクが持つ安定感と運動性の相反するファクターの混合比が絶妙で、高速道路で車線変更する瞬間すら、バイクの動きを把握しやすく、一体感がとぎれない。このスーパースポーツは、難なく高速移動をこなす。
そして、初めて入りこんだ里山の道では、見知らぬ曲率とアップダウンが続く。この合わせ技で、ライダーは緊張を強いられる場面が続くのが一般的だ。しかし、このCBRはコーナリングラインをやや奥目に持ってゆくだけで、まるで走り慣れた道でも行くように、スイスイとカーブを切り取ってゆく。路面の継ぎ目や段差に遭遇しても、気づかないほど自然にそれらをやり過ごす。たしかに、荒れた路面で段差を通過した瞬間、ハードなダンパー設定を持つバイクだけにドンという突き上げを食らうことがあるが、ハイアベレージのワインディングでは、それが本来の性能を見せ安心感に代わる。
加えて、ブレーキタッチと制動力、ギヤボックスのシフトタッチ、クラッチの穏やかでわかりやすいミートポイントなど、磨かれたスポーツ性能が、ツーリングのなかでもペースを問わず光っていた。そんなことから、臆面もなく、スーパースポーツは最良のツアラーのひとつであると宣言できるのだ。 |
HONDA CBR1000RR 新車価格>120.75万円 |
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ライディングポジションはこのとおり。ハンドルバーの低さよりも、ドカティのST3等と比較するとステップの高さが印象的。シートスポンジもけっして厚くないが、200km程度走ってもお尻は痛くならなかった。フェアリングはコンパクトで低いが、上体を少しふせると風防効果がかなり上がる |
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樹脂製のタンクカバーとなるCBRの場合、マグネットタイプのものは使えない。アイテム選びは慎重に行いたい |
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タンデムステップに空いたほぞ穴と、このフックでタンデムシートに載せた荷物をラッシングする。テールカウルの、横への張り出し部分や、シート後方の部分に、荷物が接触してもこすり傷などが付かない工夫をすれば、大荷物もいけるだろう |
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極限の走りの追求から生まれた機能装備はツーリングでも大いに役立つ。減速時にタッチのよいブレーキや、荒れた路面を柳に風で受け流せるステアリングダンパーの存在は、疲労軽減に貢献 |
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高い運動性能と安定性が ツーリングでもグッドフィール |
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下りに現れたS字2つめの左コーナーを行くCBR。アスファルトにはシワがあり、橋を越えたところには鉄板の継ぎ目がある。ちょっと体が硬くなりそうな場面だが、このバイクが持つ運動性と安定性でバランスは崩れない。逆に、それらを気にせず、ツーリングペースのなかで、走りを楽しめる喜びがとても大きいことに驚く |
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