バイクのステムベアリング交換が必要な症状とは?専門店の工賃や費用相場も解説
バイクのステムベアリングは、安全なハンドル操作をするうえで重要なパーツです。
ただし、ステムベアリングはハンドルなどと違って露出をしていません。そのため、メンテナンス初心者の場合、ステムベアリングの具体的な役割や交換の必要性などがわからないこともあるでしょう。
今回は、まずバイクのステムベアリングの特徴や原理、役割などの基礎知識を確認します。それから、ステムベアリングに生じるトラブル、セルフでも交換メンテナンスが可能かどうかなども詳しく解説していきます。
バイクのステムベアリングとは?
バイクのステムベアリングは、ハンドルのステアリングシステムとフレームのヘッドパイプの接点になっているパーツです。一般では、ステムやステアリングステムベアリングと呼ばれることもあります。
ステムベアリングは、一般的な機械にも付いているベアリングという機構を応用したものです。非常に小さな部品であるものの、バイクが安全に走行するうえで重要な役割を担っています。
ここでは、ステムベアリングについて詳しく知るために、ベアリングという機構の仕組みや特徴を見ていきましょう。
ベアリングとは?
ベアリングは、機械のなかにある、以下のような「物」の回転を助ける部品です。車輪などの回転軸を支えることが多いため、日本語では「軸受(じくうけ)」といいます。
ベアリング自体は、普通自動車や飛行機などの乗り物や、掃除機やエアコンなどの生活家電、発電機といったさまざまなところで採用されています。
先述のとおり、ベアリングはとても小さく地味な部品です。しかし、回転軸が必要な機械には、必ずといって良いほどベアリングが使われています。この特徴から、機械産業の米(コメ)とも呼ばれるようになりました。普通自動車では約100個、高級自動車では1台につき約150個ものベアリングが使われることもあります。
バイクでも、ステムベアリングだけではなく、ミッションベアリングやホイールベアリングがあるなど、さまざまな箇所でベアリングが使われています。二輪車においても欠かせない機構であると考えてよいでしょう。
ベアリングの原理と2つの役割
古代エジプトのピラミッド建設では、地面に敷いた丸太の上を転がして重い石を運んでいました。エジプトの壁画にも描かれているこの仕組みは、ベアリングの元祖であるといわれています。
ベアリングの構造をシンプルに表すと、以下の3層で構成されています。
ピラミッド建設の仕組みで例えると、重い石を動かすために敷き詰められた丸太が転動体ということになります。一般的な歯車で表すと、内輪のさらに内側に回転軸があるイメージです。回転軸が回れば、複数の転動体による内輪と外輪の間の「転がり運動」が起こり、以下の効果や役割が生まれます。
回転を滑らかにする
回転軸がぐるぐると回れば、必ず摩擦が生じるものです。しかし、その部分にベアリングがあると、転動体が転がることで摩擦が少なくなります。また、ベアリングによる滑らかな回転は、エネルギーの無駄遣いを防ぐうえでも非常に役立ちます。
回転軸を正しい位置に保つ
回転軸と回転を支えるパーツには、摩擦によって大きな負荷がかかりますが、そこにベアリングを設置すると、負荷が軽減されてパーツが故障しづらくなります。また、負荷が少なくなり、回転軸を正しい位置に保ちやすくなります。
ベアリングにおける2つの種類
ベアリングには、大きく分けてボールベアリングとローラーベアリングの2種類があります。
ボールベアリングとは?
内輪と外輪の間にある転動体が「玉(ボール)状」のベアリングです。ベアリングのなかでも、多くの機械に使われる種類です。ボールベアリングには、軸に対して直角のラジアル荷重とともに、軸と同方向のアキシアル荷重も支えられるという特徴があります。
ローラーベアリングとは?
内輪と外輪の間にある転動体が「円筒ころ」のベアリングです。大きなラジアル荷重を支えられるため、衝撃が起こりやすい機械でよく使われています。パーツの小型化を目的に、選択されることも多い種類です。
バイクにおけるステムベアリングの役割とは?
ベアリングという機構の仕組みがわかったところで、バイクのステムベアリングの話に戻しましょう。ステムベアリングは先述のとおり、ハンドルのステアリングシステムとフレームのヘッドパイプとの間にある部品です。
バイクのハンドルの場合、ライダーの操作によって左右に動かすだけのため、機械のタービンのように高速回転するわけではありません。したがって、バイクのステムベアリングには、一般的なベアリングとは少し異なる以下3つの役割があります。
バイクの場合、通勤通学で使うような平坦な道でも、常にハンドルを左右に調整しながら走行します。したがって、本格的なワインディングロードなどに行く機会がなくても、ステムベアリングのコンディションはとても重要なのです。
また、コーナリングでもスムーズなハンドル操作ができるのは、ステムベアリングのおかげといっても過言ではありません。そして、ステムベアリングがあるからこそ、ヘッドパイプからフロントフォークが抜けることがないのです。
バイクのステムベアリングに生じるトラブル原因と症状
ステムベアリングは、バイクのなかでも特にデリケートなパーツです。ステムベアリングからバイクのトラブルが起こる場合、以下いずれかの原因が疑われます。
ここでは、ステムベアリングに損傷やトラブルが生じたときに感じるバイクの症状と、その原因を解説していきます。
直進安定性が低下する
ステムベアリングに以下の症状が生じた場合、転動体がスムーズに回らなくなり、従来のハンドル操作が難しくなります。
バイクの場合、平坦な直線の道路を走るときでも、常にライダーがハンドルの細かな左右の調整を行ないます。以前と比べてハンドル操作に余計な力が必要だと感じたり、直進状態でも疲労感を覚えたりする場合は、ステムベアリングに問題があるかもしれません。
スムーズなハンドル操作ができなくなる
転動体がスムーズに回らなければ、右左折や車線変更などのハンドル操作もしづらくなります。ただし、ステムベアリングの問題による症状は、打痕の深さによって変わるのが一般的です。
そのため、軽い傷が付いているだけの場合、ハンドル操作は普通にできるものの、何か引っかかった感覚になることもあります。
バンクが難しくなる
カーブを曲がるときに車体を内側に寝かせるバンクは、ステムベアリングの状態の影響を受けます。ワインディングロードの安全走行には、バンクの動きが欠かせません。
平坦な直線の道路で違和感を覚えた場合、ワインディングロードなどへのツーリングに行く前に、ステムベアリングの状態チェックや交換をするのが理想です。
フロントまわりがガタつく
ステムベアリングには、フロントフォークを支える、フロントホイールの位置を決めるなどの役割があります。ステムベアリングの転動体がうまく回らない場合、フロント部分にガタつきや異音が生じることがあるでしょう。
ステムベアリングの交換メンテナンスはセルフでも可能?
まず、ステムベアリングで先述の症状や違和感に気付いたときには、以下のチェックや対処が必要です。
このステップだけに注目すると、ステムベアリングの点検やメンテナンスは簡単そうに思えるかもしれませんが、実際は、一般の人にはかなり難しい作業です。
ここでは、ステムベアリングの交換がセルフでは難しい理由を紹介します。
ダメージが発見できない可能性もある
ステムベアリングの劣化や損傷箇所の多くは、分解して初めて見つけられるものです。なかには、目視だけではわからず、指先で実際に触れてみて打痕に気付く場合もあります。また、小さなボール側が少しだけ凹んでいる場合、ボールを1つずつ入念にチェックする作業も必要でしょう。
グリスを塗って元に戻す作業は、これらのチェックを終えて問題がなかった場合に行ないます。そのため、メンテナンス初心者が損傷を見つけられなかった場合、ステムベアリングの交換をせず、グリスを塗ってそのまま元に戻してしまう可能性があるのです。
取り外し時に別のパーツを傷付けるリスクがある
ステムヘッドナットを緩める作業では、外れた部品や工具、トップブリッジでガソリンタンクなどが傷付く可能性があります。
そのため、ステムベアリングの交換などをするときには、あらかじめガソリンタンクなどを外しておくか、タオルや毛布などで覆う準備も必要です。ただし、ガソリンタンクを外す場合、それだけ多くの手間と時間がかかります。
ボールが飛び散るリスクがある
ボールベアリング式の場合、ベアリングを受ける部品(レース)が見えた時点で、ボールが転がり落ちる可能性があります。したがって、ステムベアリングのチェックや交換をするときには、トレーなどを使ってレースが落ちないようにする準備も必要です。
また、レースが見えたときにボールが落ちなくても、それは古いグリスで貼り付いているだけの可能性もあります。ボールが1つでも不足すれば、当然のことながら、ステムベアリング本来の動作ができなくなるでしょう。
新しいステムベアリングの圧入が難しい
グリスを塗り終えてステムシャフトにベアリングを戻す場合、圧入もしくは平均的に叩き込むのが一般的です。
自分で叩き込みをする場合、レースにダメージを与えない工夫や、力の調整といった配慮が必要となります。一方、多くのバイクショップでは、難度の高いこの作業を効率化するために専用器具を使います。
工具が高い
ステムベアリングの取り外しやセルフメンテナンス作業では、以下のようにさまざまな工具をそろえる必要があります。見てわかるように、決して安くないコストが必要です。
ステムベアリング自体の価格は、車種、メーカー品もしくは社外品などによって変わります。
ここで注意したいのは、これだけたくさんの工具を自分でそろえても、人によっては損傷や劣化を見つけられないリスクがあることです。また、圧入などがうまくいかなければ、結果的に専門店に相談をせざるを得ない状況になるでしょう。
こうしたリスクを考えると、ステムベアリングの異常に気付いたら、自分で工具をそろえる前にバイクショップに相談をすることをおすすめします。
ステムベアリング交換を専門店に依頼する場合のポイント
ショップでステムベアリングの交換をする場合、工賃の相場は以下のとおりです。
この費用は、一見高いように感じられるかもしれません。しかし、以下2つのメリットを考えると、初心者が自分でチェックや取り外しをするよりも、コストパフォーマンスが高く効率的であるといえます。
ステムベアリングの交換工賃における注意点
ショップで交換する場合、上記の料金以外に、以下パーツの脱着工賃がかかるのが一般的です。
傾向として、カウルの付いた車種のほうがネイキッドモデルよりも交換工賃が高くなります。
ステムベアリングの作業時間における注意点
ショップの場合、専用工具を使うため、セルフよりも短い時間で作業が終わるのが一般的です。ただし、カウルやフロントフォーク、タイヤなどの脱着をすれば、1日以上かかる場合があります。
ツーリング前にステムベアリングのチェックなどを依頼するときには、余裕を持って日程調整や相談をしたほうがよいでしょう。
ステムベアリングの点検や交換頻度
新品のステムベアリングは、転動体の金属が新しく輝いている状態です。しかし、バイクを長く使っていくと、装着時に塗られたグリスが不足し、摩擦によって金属に経年劣化やサビが生じるようになります。
そのため、ステムベアリングは、損傷がなくても定期的なチェックや交換が必要な消耗部品と考えたほうがよいでしょう。
一般的には、走行距離20,000~30,000kmで、ステムベアリングの不具合が出ることが多いとされています。ただし、実際には、ブレーキのかけ方や経年などによっても、不具合が出る時期は異なります。
フロントのメンテナンススタンドやジャッキがある場合は、浮かせたフロントタイヤを左右に動かしてみるのがおすすめです。ステムベアリングが正常の場合、フロントタイヤに引っかかりはありません。一方で、真ん中でタイヤが止まった場合は、ステムベアリングを要交換ということになります。
お店での交換実績はこちらから確認できます!
グーバイク ステムベアリングに関する作業実績一覧
まとめ
バイクのステムベアリングには、3つの役割があります。
ステムベアリングに劣化や損傷、潤滑不足で生じると、バイクに以下の症状が起こります。
ステムベアリングの点検や交換は、メンテナンス初心者には難しい作業です。そのため、先述のような違和感や不調が生じた場合は、早めにステムベアリングの交換実績のある専門店に相談をしたほうがよいでしょう。
本記事は、2021年11月30日時点の情報です。記事内容の実施は、ご自身の責任のもと安全性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い致します。