にわか知識ですいませんの投稿検索結果合計:1枚
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2020年03月14日
45グー!
「よし! 」
私は気合いを入れる
「ふぅ……」
集中。キックを最適な位置に調整。
「ーーっふん!」
蹴り落とす!
チ、チ、カシュンーー失敗。
「………」
アイドルは4分の1上げ、チョークを全開。
「はぁ…」
再び集中……キックを調整。
「ーふ!」
蹴り落とす!
チ、カシュンーー失敗。
額を拭って、三度集中……
アクセルは開けない
「ーーふぅ!」
蹴り落とす!!
ドドンッ!
けたたましい音が鳴り響く!
E/Gが起きた。
チョークを半分閉めてしばらく暖気。
そして頃合いを見て、チョークを閉める。
「………」
腹に響くサウンドを感じながら、通常のアイドル位置へ。
あの独特なテンポが刻まれ始める。
「出発だ」
私はヘルメットのアゴひもを閉める。
去年の春、父を見送った。
「人は泣きながら生まれてくる。だからイく時は轟笑をもって閉じるべし」
生前の父のたわ言。
文字通り、笑いながら満足そうにイってしまった。
大いに笑って、少しばかり泣いて喪に服す。
そして、少しずつ父の遺品を整理していく。
そんな折りに。
「あ」
私は思わず声を漏らす。
それは父のガレージの中にカバーを被り鎮座していた。
カバーを取り払う。
「まだ有ったんだ」
ハーレーが居た。
ガソリンとホコリの匂いの混じるガレージ中、忘れられたように佇む鉄塊。
私がまだ中学生の頃に、父が乗っていたバイク。
父は目を子供のように輝かせ、このハーレーを磨いていた。
私も何度か後ろに乗せてもらったが……
「やだ! うるさい! くさい! 」
思春期の私には分からなかった。
まぁ、そんな言葉を聞き、当の父は高笑いしていたが。
ただ、それから父がバイクを見せびらかすことは少なくなった。
ふと、ナンバープレートの車検の月日を確認する。
今年いっぱいまで残っていた。
思わずハンドルに手を伸ばす。
「……あたたかい」
触った指先から熱を感じた。
シートに座り、両手でハンドルを握り車体を起こす。
「ッ! おっもぉ!」
ズッシリとした重さと鉄の軋み。
クラっとガソリンを吸い込んだような目眩を感じる。
「ねぇ~。何か有った~?」
母の声が家の方から響く。
「ううん! 何でもなーい」
ハーレーにカバーをかけ直す
「………」
私はそれを一瞥し、ガレージを後にする。
それからしばらくして、中型と大型の免許を取った。
そして、父のハーレーの整備をショップに頼む。
「うわぁ! ショベルじゃないですかッ!?」
ショップのオジさんが父のように目を輝かせる。
「あの、動かせるようにして欲しいんですが……」
私の言葉も上の空、オジさんの目はハーレー、ショベルに釘付け。
「あ、すいません! 承りました! お任せ下さい!」
私は父のショベルヘッドに乗ることにした。
苦労した、本当に苦労した。
セルも無ければ、何もない。
キックに悪戦苦闘。
車校での経験がまるで使えない。
修理費での苦心が可愛く思えるほどに手を焼いた。
でも。
「お! おぉ!」
乗るたびに父の気持ちを理解していった。
ショベルを通して昔日の父と対話する。
走る。眺める。撮る。
「血は争えんね~」
そんな私を見て、母が煎餅を頬張りながら呟く。
「明日、流星群を見に行くけど母さんも来る?」
「うーん」
母がうなる。
流星群は父と母の初デートでの思い出。
「とりあえず明日までに考えといて」
言ってショベルをガレージに納める。
そして棚に置かれたアルバムを開く。
挟まれた父の思い出の足跡に、私も写真を挟んでいく。
「明日は晴れると良いなぁ」
呟きながら心から願った。
そして翌日。
夜になり、冒頭のように出発の準備をしていると……
「お嬢さん」
聞きなれた声が私を呼ぶ。
「私も連れてって下さいな」
母がおめかしし、ヘルメットを準備していた。
「……もうぅ、母さ~ん遅いよ~」
ニヤケながらタンデムシートを急いで取り付ける。
「じゃ行くよ」
私の言葉に、母がしっかりと抱きついてくる。
スリーテンポのパルスを響かせ、走っていく。
「わぁ」
母がショベルのサウンドに紛れながら声を漏らす。
「お父さんとも、こんな風に走ってたの?」
「ーーうん」
「そっか」
少しスピードを緩める
「じゃ、これからは私と走ろうね!」
私は叫ぶ。
「うんッ!」
空を見上げる。
満点の星空、ひときわ輝く星が見えた。
「父さん」
ありがとう
「バイクって」
これからはそこから
「楽しいね」
私達のことを見守っててね
地面を駆ける一筋の光
空を駆ける一筋の光
後を追うのは、さてどちらだったか……
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