マリン後輩さんが投稿したバイクライフ

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    夜も更け、もう店を閉めようかというところで電話が鳴った。
    「はい。忠夫飯店でございます」
    「もしもし! 俺ばってんが!」
    早口でまくし立てる口調で名乗られる。
    「あぁ、ヒデオさん。どうかされました?」
    常連のヒデオさんからだった。
    「まだ店やっとんね?」
    「すいません……。もう閉めようかと…」
    「なら良かった! ちょっと頼みが有っての。頼まれてくれんかね?」
    「……はぁ」
    とりあえずヒデオさんの話を聞く。
    さては酔い潰れたか? もしくは飯の配達か……
    「人がね倒れとっちゃん」
    「え?」
    「今から言う場所に来てくれんの」
    「…はい」
    思ったよりも深刻だった。

    愛車のドラスタ250に乗り、現場へ向かう。
    「人が倒れてるねぇ~」
    ヒデオさんはお節介焼きだ。
    困ってる人を放っておけない人、家には拾った犬や猫まで居る。
    そんな人が、呑気に電話してくるくらいだ。
    最悪の状況ではないんだろう……
    「しっかし温かくなったな」
    さすが4月ともなれば、深夜でも寒くない。
    片側2車線の国道2号を走って行く。
    途中、右車線を爆音を響かせ数台が通過していった。
    青、赤、銀。
    一瞬だけカウルが見えて、テールランプの残光と消える。
    「速いなぁ…」
    元気だねぇ~。
    そうこうしてるうちに到着。

    「おーい。こっちこっち」
    広々とした公園の駐車場にヒデオさんと、バイクの傍らグッタリと腰かけるライダーの兄ちゃんが居た。
    「すまんすまん。兄ちゃんが1人でキャンプしてて、心配でのぉ」
    1人喋るヒデオさん。
    「飯も食っとらんち言うけんね、放っとけんやろ」
    傍らの兄ちゃんを見ると、街路灯の光も手伝って青ざめて見えた。
    「………」
    当の兄ちゃんはなにも言わない。
    くっきりと眉間に寄ったシワ。
    恐らくは私達を警戒しているんだろう。
    無理もない。何せ夜営してたら、いきなりうるさいオッサンに絡まれ、あげく仲間まで呼ばれてるのだから……
    「……旅の方ですか?」
    私の問いに兄ちゃんが頷く。
    「うち、飯屋やってるんですよ。食べに来ませんか?」
    ヒデオさんの勢いに乗っかり提案。
    兄ちゃんが露骨に嫌そうな顔になる。
    「これも旅。旅は道連れ、世は情けですよ」
    「そうばい、そうばい。タダオの飯は美味かぞぉ~」
    ヒデオさんも畳み掛ける。

    「分かりました」

    兄ちゃんが折れた。
    「では私のドラスタに付いてきて下さい」
    ヒデオさんに別れを言って、兄ちゃんのエストレヤと店を目指す。
    途中、はぐれてないかミラーで確認。
    その姿にはドッと疲れが来ているのが見えた。
    「こりゃ腕によりを掛けなきゃね」
    店の前にドラスタとエストレヤを停める。
    「どうぞ~。いらっしゃいませ~」
    入口の鍵を開け、店の照明を点ける。

    「……すいません」
    兄ちゃんの申し訳無さそうな声。
    とりあえずテレビを垂れ流す。
    準備の傍ら見れば、探偵ナイトス○ープが放送されていた。
    「………」「………」
    吹き抜けの厨房で料理を作っていく。
    何を作るかは決めていた。
    「……この町に来る途中、若いライダーと会ったんですよ」
    兄ちゃんがポツリと喋る。
    「……そうですか」
    兄ちゃんの話を相づちを打ちながら聞く。
    旅での出会い
    旅のきっかけ
    そして今の現状
    兄ちゃんの漠然とした澱のようなモノを欠片ながら享受する。
    「そうなんですね。じゃ」
    一通り話が進み、またナイト○クープもCMに入った所で、私は出来上がった料理を出した。
    「鶏カシューナッツ炒めです。ご賞味あれ」
    大皿に溢れるほどに盛り付けた渾身の料理。
    「……頂きます」
    兄ちゃんの目に少しだけ光が見えた。
    スプーンで口に運んだのを確認し、次の料理に取りかかる。
    「ーーうめぇ」
    こぼれる言葉。その言葉に心が温かくなる!
    兄ちゃんがスプーンを進めていく。
    まずい! このままでは間に合わん!
    大急ぎで鉄鍋を振るう。
    「はい、チャーハン!」
    こんもりと盛ったチャーハンを追加。
    「うめぇ」
    兄ちゃんがハフハフと息を荒立てながらも感想を言ってくれた。
    「ふふふ」
    私は もはや笑みを隠せなかった。
    これだ。これなんだ!これこそが私の幸せ!
    私は片付けの傍ら、頬張る兄ちゃんを眺めた。

    しばらくして。
    「……ふぅ。ごちそうさまでした」
    兄ちゃんが手を合わせる。
    「お粗末さまでした」
    「ホント美味しかったです」
    「ふふふ、そうですか。お口に合って何よりです」
    私は満ち足りた気持ちで皿を片付ける。
    兄ちゃんが何を言うでもなく、テレビを眺める。
    「~~」「~~」
    テレビの音と洗い物の音が場を支配する。
    「ーーあの」
    私は兄ちゃんに話しかける。
    「さっきの旅の話ですけど……」
    ーーそう断って。
    「私の考えを言っても良いですか?」
    尋ねる。兄ちゃんは頷いてくれた。

    「私は貴方を知りません。……でもね。1つだけ貴方のことが分かります」
    「それはバイクに乗っているということ」
    私の言葉を兄ちゃんが静かに聞く。
    「今の時代、バイクに乗らなくてもどこでも行けます」
    「車、電車、飛行機に船。より安全に移動、目的をこなせる手段は幾らでもあります」
    「Y○UTUBEを見ればアマゾンの奥地でも富士山の山頂でも時速300キロのクレイジーな世界でも見ることが出来る」
    ーーでもーーそれでも。
    「貴方と私はバイクに乗っている」
    「同じセカイを目と肌と耳で感じている。これって素晴らしいことじゃありませんか?」
    兄ちゃんは何も喋らない。
    「生きていると色々なモノに縛られます」
    「最早自分が何のために生きているのかと 道標 を見失うことだって有る」
    「そんな時にするのが、旅なんじゃないですかね?」
    「絡まる有象無象から己を解き放ち、自分の居場所、自分の行く先を、道標を確認する」
    ーーそれが旅。

    ……それが見つからなかったら?
    兄ちゃんの真っ直ぐな瞳。

    ーーその時は。
    「周りを見てください。貴方の周りには私達(ライダー)が居ますよ」
    「知ってますか? ライダーのメットが簡単に脱げるのは相手と喋る為なんですよ」
    兄ちゃんにパインジュースを差し出す。
    「バイクも人も1人で立ち続けることは出来ません。もし見失って倒れそうな時は」
    おまけで冷蔵庫から胡麻団子も出す。
    「支えますよ。時代も地位も全てを飛び越えてね」
    バイクに心底惚れてるバカ同士仲良くしましょうや。

    「…………なるほど」
    兄ちゃんが胡麻団子を食べる。
    「すいません。長々と自分語りしてしまって」
    まさしく汗顔の至り。支離滅裂なことを喋ったかもしれない。
    「……ん?」
    ドコドコと聞きなれた音が聞こえた。
    店の外が明るく照らされる。
    そして。
    「おーい。まだやっとるかーい」
    ヒデオさんがやって来た。
    「酒も持ってきたぞぉ! 喜多屋ぞ喜多屋!」
    「えぇ~。酒飲んでどうやって帰るんですかぁ?」
    「お前ん家泊まりゃ良かろうもんッ! あ、兄ちゃんもの。今日は帰さんぞ! 面白か話ば聞かせんかッ!」
    ヒデオさんが兄ちゃんの横に陣取る。
    「んもう~」
    絡まれる兄ちゃんを見る。
    「これで貴方も私も~♪な~か~ま~♪」

    気付けば眉間のシワは消え失せてーー

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