バイクのキャリパーオーバーホールは必要?手順や注意点、費用相場を解説!
キャリパーを分解し、洗浄してから再度組み立てるオーバーホールは、どのような症状が出たら行なう必要があるのかをご存じでしょうか?
キャリパーオーバーホールは、自分で行なうこともできます。その場合には、道具・材料が必要になるのはもちろん、手順についても細かな注意点が多くあります。
そこで、この記事ではキャリパーオーバーホールについて、症状や方法などを解説します。併せて、セルフで行なう場合とショップに依頼する場合の工賃・費用をご紹介しますので、キャリパーオーバーホールを検討している方はぜひ参考にしてください。
キャリパーのオーバーホールが必要なときの症状は?
ディスクブレーキの主要部品であるキャリパーは、以下のような症状があればオーバーホールが必要です。
パッドを引きずる
引きずり音が発生します。
ブレーキタッチの悪化
「ブレーキが利かない」とまでは行かないものの、ブレーキレバーを引いたとき、ディスクにパッドが当たる瞬間の感覚が鈍くなることがあります。
ブレーキフルードが漏れる
キャリパー付近から漏れていれば、キャリパーの異常が考えられます。
これらの症状の原因として考えられるものを、以下で解説します。
おもな原因はブレーキフルードの劣化
上記のような症状の原因には、おもにブレーキフルードの劣化が考えられます。ブレーキフルードは吸湿性があるため、雨天走行などで湿気を吸って徐々に劣化し、ピストンシール付近に堆積物となって付着することがあるのです。
このブレーキフルードの堆積物を除去することが、キャリパーオーバーホールの大きなポイントとなります。
その他に、ピストンシール付近やピストンとボディの摺動(しゅうどう)部分に生じた錆びが、上記症状の原因となることもあります。
キャリパーのオーバーホール方法

それでは、キャリパーのオーバーホールについて、必要な道具や手順、注意点などを見ていきましょう。
キャリパーのオーバーホールに必要な道具
キャリパーのオーバーホールには、以下のような道具が必要になります。
オーバーホールではダストシールやオイルシールを交換するため、それぞれ新品を用意する必要があります。また、ピストンの潤滑には、耐熱グリス(シリコングリスなど)やメタルラバーなどの非鉱物油系ラバー潤滑剤が有効です。ピストンの清掃にはコンパウンドを使い、細かな傷を取り除きましょう。
なお、トルクレンチは最後の締め付けに使います。ブレーキフルードやバンジョーボルトの銅ワッシャーは、ブレーキホースを外すため必要になるものです。
キャリパーのオーバーホール手順
キャリパーのオーバーホール手順は、以下のとおりです。
①ピストンを取り外す
まず、キャリパーからピストンを取り外しますが、ここがキャリパーオーバーホール最大の難所です。キャリパーピストン脱着ツールでピストンをつかんだら、円周方向に少しずつ回しながら引き抜きます。
ピストンの取り外しには、エアコンプレッサーのエアをオイルラインに入れ、その圧力を利用する方法もあります。しかし、危険をともなう場合があるため、キャリパーピストン脱着ツールを使うのが無難でしょう。
②部品を洗浄する
ピストンを取り外したら、すべての部品を洗浄します。
ピストンに錆びが発生している場合は、1000番の耐水ペーパーなどを使い円周に沿って磨きます。そのあと、コンパウンドでツルツルに磨き上げましょう。
その際に、縦方向に磨いてはいけません。万が一、縦方向に傷が入ると、ブレーキフルードが漏れる可能性があるからです。
シール溝には、ブレーキフルードが固形化したカスが付着しています。このカスをエッジの鋭いツールを使用し、溝に傷を付けないように注意しながら、きれいにこすり落とします。カスが硬くて落ちにくい場合には、お湯につけてやわらかくするとよいでしょう。
洗浄が終わったら、ブレーキクリーナーを吹き付け、水分をエアで飛ばして乾燥させます。
③部品をセットする
乾燥が終わったら、ダストシール・オイルシールに耐熱グリスや非鉱物油系ラバーを薄く塗り、キャリパーにセットします。ダストシールとオイルシールは、間違えないように気を付けましょう。
そして、グリスを薄く塗ったピストンをキャリパーにセットして、まっすぐに挿入します。入りにくい場合には、少し回転させるようにするとスムーズに入るでしょう。
キャリパーのオーバーホールにおける注意点
キャリパーをオーバーホールする際の注意点を見てみましょう。
エアコンプレッサーのエアをピストンの取り外しに利用する場合は、飛び出しに注意しましょう。ピストンが勢いよく飛び出すため、ブレーキフルードが飛び散る、あるいはピストンが体に当たって怪我をするおそれがあります。
また、キャリパーにピストンを組み込む際には、無理に押し込まないようにしましょう。無理に押し込んでシールが傷付いたり、破損・脱落したりすると危険です。
ブレーキフルードは塗装を侵食して傷めます。塗装面に垂れてしまった場合には、すぐに水で洗いましょう。
ブレーキパッドを再利用する場合は、左右や回転方向をマークして、間違えて取り付けてしまわないようにしてください。
最後にキャリパーを車体に装着する際には、ボルト締めはトルクレンチを使って行ない、しっかりとトルク管理をしましょう。作業がすべて終わったら、走り出す前にブレーキレバーを握って、ブレーキの利きを確かめます。これは、ブレーキパッドの押し出しも兼ねています。
キャリパーのオーバーホール方法は以上のとおりです。見てわかるように、作業の難度はかなり高いといえるでしょう。
また、重要な部品であるブレーキに関する作業となるため、万が一不備があれば事故に直結しかねません。少しでも不安があれば、専門業者へ依頼したほうがよいでしょう。
お店での施工実績はこちらから見られます!
ブレーキキャリパーOHに関する作業実績一覧
キャリパーのオーバーホールとセットになる「エア抜き」とは?
キャリパーのオーバーホールを行なう際にはブレーキホースを取り外し、フルードを抜くことになるため、「エア抜き」が必然的にセットになります。
ここでは、ブレーキのエア抜きのコツを紹介します。
ブレーキのエア抜きをする方法
キャリパーオーバーホールでのエア抜きは、ブレーキホース内からフルードが完全に抜けてエアのみになった状態から行ないます。通常でもよく起こる、オイルラインに少しエアが噛んだ、という状況などとは異なります。
そのため、注射器を使用して下からフルードを送る方法がおすすめです。マスターシリンダーからフルードを送る通常のエア抜き方法では、エアはまったく抜けません。
注射器を使用したエア抜きの手順は、以下のとおりです。
①セッティング
注射器は、フルードを1回で充てんできるよう、大きめのものを用意します。先端にホースを取り付け、その先に径の大きなホースをさらに取り付けるなどして、ブリーダーにしっかりはめ込めるようにしておきましょう。
②フルードを充てんする
ボトルから注射器にフルードを吸い取って、注射器がいっぱいになったらブリーダーにホースを取り付け、ブリーダーを緩めます。注射器のピストンをゆっくり押し、フルードを泡立ててしまわないよう注意しながら、充てんしていきましょう。
フルードがリザーブタンクまで上がってきたらブリーダーを締め、充てんは終了です。
ただし、エア抜き作業はこれで完了ではありません。この時点ではまだ、小さなエアの泡がホース内に残っているからです。このホース内のエアを抜くためには、マスターシリンダーからフルードを注入する通常のエア抜き作業を行ないます。
手順は以下のとおりです。
以上の手順を何度か繰り返します。
エア抜き時の注意点
エア抜き時の注意点を見てみましょう。
注射器でエア抜きしたあと、通常のエア抜き作業では、リザーブタンクからフルードがなくなってしまわないよう注意しましょう。
また、エア抜きのためブリーダーを緩める際には、ブレーキレバーを離してはいけません。離すと逆流してエアを噛むからです。
キャリパーオーバーホールの解説でも触れましたが、フルードは車体の塗装を侵食します。少しでも垂れてしまったら、すぐに水で洗いましょう。
ブレーキフルードのDOT選びについて
ここで、ブレーキフルードの規格「DOT」と、その選び方を紹介します。
DOTとは?
DOTとは、ブレーキフルードの沸点によって定められた規格です。沸点の違いによってDOT3、DOT4、DOT5の3種類に分けられます。
「なぜ沸点の違いによって規格があるのか」と思う方もいることでしょう。それは、ブレーキフルードはパッドやローターの熱が伝わり、高温になるからです。
ブレーキフルードが高温になって沸騰すると、フルード内に気泡が発生します。すると、ブレーキレバーを引いても、気泡がつぶれるだけでブレーキが利かない「ベーパーロック現象」が起こってしまうのです。
DOTは、フルードが新品のときの沸点である「ドライ沸点」と、使用後1~2年で空気中の湿気を吸ったときの沸点「ウェット沸点」の2つの値で決まります。湿気を吸うにつれて沸点は下がるため、ウェット沸点はドライ沸点より低い値となっています。
DOTの選び方
DOTは、DOT3、DOT4……と、数字が大きくなるにつれてドライ沸点・ウェット沸点とも高くなります。「それでは沸点が一番高いDOT5を選べば良いの?」と思う方もいるでしょう。
しかし、沸点が高ければ良いわけではありません。ドライ沸点が高いフルードほど吸湿性も高くなり、劣化が早まる傾向があるため、交換時期が短縮されてしまいます。
したがって、街乗りだけならDOT3、サーキットへも行くのならDOT4以上など、用途によって最適なDOT数が変わります。基本的には、純正指定のDOTを選択すれば安心でしょう。
エア抜きの方法や注意点は以上のとおりです。キャリパーオーバーホールと同様に、エア抜きも確実性が求められる作業となり、難度はそれなりに高くなります。もしセルフでこなす自信がなければ、専門業者に依頼するとよいでしょう。
お店での施工実績はこちらから見られます!
エア抜きに関する作業実績一覧
キャリパーオーバーホールの工賃・費用の目安
キャリパーオーバーホールの工賃・費用の目安を見てみましょう。
セルフで行なう場合の費用目安
セルフで行なう場合にかかるのは、道具と材料の費用だけです。前述した道具の費用を合計すれば、6,550円~4万3,300円となります。
セルフでのオーバーホールを継続的に行なう場合、キャリパーピストン脱着ツールやトルクレンチなどの工具は2回目以降の購入が必要ありません。消耗品の購入だけで作業できるため、その場合の費用は2,550円~1万300円です。
ショップに依頼する場合の工賃・料金の目安
ショップに依頼する場合の工賃は、5,000円~1万6,200円程度です。ただし、ピストン数や片押し/両押しの違いによって変わります。
また、キャリパーの状態が悪く堆積物がある場合には、除去のために別途工賃がかかることもあるでしょう。
その他、カウルなどほかのパーツを取り外す必要がある場合には、別途工賃がかかることもあります。また、ダストシールやオイルシールなどの部品代は、上記工賃とは別に発生することも覚えておきましょう。
まとめ
キャリパーのオーバーホールは、パッドを引きずるなどの症状が出てきたら行なう必要があります。セルフで実施する場合には、セットになるエア抜き作業とともに、手順・注意点を守って慎重に行ないましょう。
しかし、キャリパーオーバーホールの作業は確実性が求められ、難度は高いといえます。もし、セルフで行なう自信がない場合には専門業者への依頼を検討したほうがよいでしょう。
本記事は、2021年11月30日時点の情報です。記事内容の実施は、ご自身の責任のもと安全性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い致します。