さて、実際にマシンを走らせる前に、約10年前のSSシーンを、当時も現在も中心的カテゴリーとなっているリッター4気筒に的を絞って、簡単に振り返っておこう。
そもそも、リッター4気筒SSの基礎を築いたのはヤマハだった。「それなら92年型のCBR900RRだろう」とか「いや、86年型のGSX-R1100が……」と、いろんな意見があるかもしれないけど、4気筒SSは1000ccという現在のような排気量概念が固定したのは、ヤマハのYZF-R1が98年にデビューして、それをスズキGSX-R1000が01年に追従したからだと言ってよいだろう。
R1登場の6年も前、ホンダは「ライダーが操れる軽さと性能」を考えて排気量の上限を模索し、CBR900RRをデビューさせた。それまでにない過激なモデルに、とにかく多くのスポーツライディングファンが憧れた。
それから2年後の94年には、カワサキのニンジャZX-9Rが発進。こちらは、従来のカワサキ的な直線重視指向が強かった。
しかしそれ以上、キューヒャクという排気量帯のピュアスポーツモデル開発は、世界的にもそれほど広がっていかなかった。事実、当のホンダも900RRを、96年型で以前の893ccから918・5ccへと排気量アップしている。
そんな風に下地が作られたところに登場したのが、それまでFZR1000やYZF1000Rサンダーエースといった、4気筒1000ccスポーツを手がけてきたヤマハが“ツイスティロード最速”をテーマに掲げて開発した渾身の一作、YZF-R1だった。
当時のスーパーバイクレースは、4気筒750ccと2気筒1000ccで競われていた。つまり、センやキューヒャクの4気筒SSには、レースベース車としての役割はなかった。R1にしてもそれは同じで、目指したのは、あくまでも公道走行を前提とした刺激的なスポーツ性能。そのスタンスは900RRを追随したものと見えた。だが、主要三軸をトライアングル配置することで(当時としては)驚異的なコンパクト化を実現した150馬力エンジンを、GPマシン直系のディメンションや剛性バランスが与えられたデルタボックスIIアルミフレームに搭載。さらに乾燥重量177kgという軽さを実現したR1は、多くの信者を生みだしたのだった。
このライバルの出現に対してホンダは、00年型で900RRを完全刷新。エンジンはFI燃料供給方式の929cc仕様となり、フレームはセミピボットレス化。16インチだったフロントタイヤの17インチ化や、倒立式フロントフォークの採用など、全体的に現代風パッケージへと進化させた。最高出力は148馬力、乾燥重量は170kgに抑えられ、これでいよいよ、セン&キューヒャクSSの軽量高出力戦争が本格化してきた。
そしてこのバトルに、突如として参入してきたのがスズキのGSX-R1000だ。前年、レースでの勝利を目指して徹底的な軽量小型化が施されたGSX-R750をベースとするという、異例とも思える手法で、乾燥重量はナナハンよりわずか4kg増の170kg、最高出力は160馬力というモンスターを投入したのだ。
さて、国内4メーカーのセンまたはキューヒャクのSSが出揃ったところで、市販車レースの世界でも「レースのためだけに開発されて公道用としての販売に結び付かないナナハンではなく、各社の熱い開発が続くセンやキューヒャクをベースとした車両でレースをしてはどうか?」という意見が増えることになった。その結果03年には、スーパーバイクレースは4気筒モデルの場合は1000cc以下という動きが本格化。04年にはホンダがCBR1000RR、カワサキはニンジャZX-10Rを投入し、ヤマハもR1の開発方向を大きく変更することになった。
98年にデビューしたR1の3代目(02 〜 03年型)。車体は完全な新作で、デルタボックスIIIに進化したアルミ製フレームを採用。エンジンも大幅な刷新が施され、吸気はキャブに代わり、負圧ピストン併用のFI仕様となった。前傾姿勢が強いスポーティなライポジが与えられていた。04年型で大幅に路線変更するため、わずか2年の過渡期モデルという位置づけとなったが、公道でのスポーツ性は高いレベルにある。
- ●エンジン形式 並列4気筒DOHC4バルブ ●総排気量 998cc
- ●ボア×ストローク 74.0mm×58.0mm
- ●最大出力 111.8kw(152ps) / 10,500rpm
- ●最大トルク 104.9Nm(10.7kgf・m)/ 8,500rpm
- ●冷却方式 水冷 ●ミッション 6速
- ●全長×全幅×全高 2,035mm×705mm×1,105mm
- ●ホイールベース 1,395mm ●シート高 820mm ●乾燥重量 174kg
- ●タンク容量 17L ●タイヤサイズ F:120/70ZR17 R:190/50ZR17
- ●中古参考価格:66.2万円
1,指針式回転計と液晶パネルを併用し、シフトタイミングインジケーターを備えたメーター。現行型にもつながるデザインで、古臭さはない。2,前ブレーキキャリパーはラジアルマウント式ではないが、ヤマハとスミトモが共同開発したモノブロック型のMOSキャリパーを使っている。小さくて軽いのが特徴。3,マフラーは、オーソドックスな右側1本出し。LEDテールランプが、リヤのスリム感を強調している。4,センターアップマフラーを採用せず、電子制御パーツも少ないことから、テールカウル内には意外なほど広めな収納スペースがある