東京に生まれ育ったボクには、いわゆる田舎というものがない。小学生の夏休み、「田舎へ行くんだ」という何人かの同級生の言葉を、とてもうらやましく思って聞いていた。麦わら帽子に白いランニングシャツ姿で虫取り網を手に野山を走りまわる……。そんな自分を想像しては、悔しさに胸が詰まった。
田舎で過ごす夏休みへのあこがれはこれからも消えることはない。そして実現することのない夢でもある。けれども疑似体験というかたちでならば、容易だ。だからこの夏ボクは、会津へとツーリングすることにした。
関越自動車道で一気に小出へ。ここから国道252号線で奥只見を目指す。東京から会津へ向かうには、東北自動車道、関越自動車道を乗り継ぎ会津若松へというルートが一般的だ。しかし、一刻も早く涼を求めたくて、会津のもっとも奥まった地である只見から入ることにした。
中越地震の爪痕なのか、国道は至るところで復旧工事をしている。険しい山肌を縫うように続く道は、それでなくてもペースを落とさざるを得ないのに、加えて片側通行規制にたびたび出くわすのだから、田子倉湖に着いたときには昼を過ぎてしまっていた。空腹は覚えていたけれど、しかし気が急くことはなかった。自然の懐に入り込んでいる現実が、とても心地よかったのである。
前夜の雨で蒸し暑く、見渡す景色もやや霞んではいたけれど、湖面をかすめてくる風が爽やかだ。ゆったりとしたときを過ごし、田楽とおにぎりで空腹を満たす。
ダムサイトから国道を駆けおりると只見の町に入る。町はずれにある茅葺き屋根の叶津番所跡に立ち寄ってみた。県の指定重要文化財である旧長谷部家住宅がかつての番所で、幕府や会津藩の役人のため上段の間の奥座敷を持ち、ひときわ風格のある構えである。山村風景によく似合っている。
うまいとうふがあると聞いて、会津川口から国道400号線を南下。山間ののどかな風景のなかに「玉梨とうふ茶屋」はあった。奥会津百年水と呼ばれる高森山の伏流水と、緑色の青ばと豆とによって作られた青ばととうふは、豆の味がほのかなうま味となって口の中に広がる。ほかにもとうふを素材にしたドーナッツやアイスクリームなどがあり、子供たちにも人気だ。また、湧き出る清水はペットボトルなどに注ぎ入れ持ち帰ることもできる。 |