埼玉県秩父郡大滝村。山梨、長野両県と接する埼玉深奥部のこの村へ行くことは、ツーリングライダーでもそう多くはない。中津川林道を越えて八ヶ岳方面へと向かうオフロードライダーが寄り道程度に入り込むことはあっても、ツーリングの目的地にはなりにくい場所だ。へそ曲がりなツーリングライダーでさえそうなのだから、一般の行楽客などまず訪れない。しかし、だからこそ今もなお、緑豊かな自然が残っているし、そぼくな村の暮らしも息づいている。
国道140号線は、長いこと「開かずの国道」といわれていた。山梨県境に立ちはだかる雁坂嶺があまりにも険しく、道を通すことが困難だったからだ。だが1998年4月、一般国道の山岳トンネルとしては日本でいちばん長い6625mの雁坂トンネルが開通。国道140号線はようやく全通した。
大滝村へツーリングしたのはそれまで2回あった。しかしトンネル開通後はすでに3回も来ている。行き止まりではなく、周回できるルートになったことが、足を向かせやすくなった理由だ。
当然、車の交通量も格段に増えた。とはいっても山奥のこと、行き交う車はたかがしれている。そんな大滝村を目指して、秩父路をツーリングした。シルバーウイング600でのタンデムツーリングである。おやじモード全開の組み合わせだが、たまにはのんびりゆったりのふたり乗りも悪くない。
まずは「長瀞ライン下り」から……と考えていたのだが、あいにくの天気。しぶきでどうせぬれるのだからとも思ったが、なんとなく腰が重くて、またの機会にと素どおり。とりあえず秩父市内へと向かった。
秩父市は人口約6万。文字どおり秩父地域の中心都市で、木材、絹織物産業は江戸時代から盛んだった。また、武甲山から採掘される豊富な石灰岩を利用したセメント産業もよく知られている。1969年の西武秩父線の開通を機に観光地としても一段とクローズアップされるようになり、毎年12月に行われる「秩父夜祭り」には、全国から大勢の見物客が訪れる。
市の中心にある秩父神社に行ってみた。広い境内には立派な社があり、参拝者があとを絶たない。困ったときだけ「神様仏様……」なんて願かけするボクだが、社殿を前にすると、なんとなく頭を下げてしまう。パートナーもかしわ手を打っている。
打つといえば、そば打ちを体験することも、今回のツーリングの目的。どうせやるならひとりよりふたりで、ということでタンデムしてきたのだ。聞けば、そばの花も満開だという。荒川村へと走り出すころ、雨は上がっていた。 |