「やっぱりこっちに来てよかった」
しみじみそう思ったのは、羽鳥湖へと駆け上がり、湖沿いの広葉樹のトンネルを抜ける峠道に出たころだ。
この道は夏の定番だ。包む空気のすがすがしさもうれしい。適度に荒れたアスファルトと、風で落ちた葉が、ミラーのなかで舞い上がる。
意識がどんどん軽くなったころ、道は羽鳥湖のダムの上を越えた。国道118号を左に折れて会津若松方向へと進む。ドルルルルルゥ、そんな一定の音を刻みながら走るグッチ。眼下に見える鶴沼川が、バイクで走るボクにたまらない清涼感を届けた。
冬にはどっさり雪が積もるこの道は、両側に赤と白に塗り分けられた矢印が道路と路肩の境目を指し示している。南部とはいえ、間違いなく東北地方にいる充実感が沸いてきた。国境はないけれど、国を越えた感じ。移動感がじんわり広がった。
しばらく走って湯野上温泉の駅でひと息入れることにした。この駅舎の待合室にはいろりがきられていて、かやぶき屋根の駅舎内をいい具合に黒くいぶし上げている。レトロ風じゃない、本物のレトロだ。
駅の向かいのタクシー乗り場は、列車が来ない時間は閑散としている。その緩く流れる時間がなんともステキだ。駅舎で買った400円のかりんとうを食べながら、しばしのまったりモード。
バイクに戻ると、駅舎の前には福山ナンバーのZRXが止まっていた。話を聞けば、広島の瀬戸内の街で3年ほどトラックを運転して稼ぎ、その軍資金を持ってこれから3カ月、北海道で過ごすために移動中とのこと。
20代半ばの彼は、ぴちっと革ジャンを着込んでこれから向かう北海道へと迷いなく羅針盤を向けていながら、道中も楽しんでいるようす。「今日はこれから、今回のツーリング初のキャンプ場に行きます」と言っていた。
「バイクは旅だよ」とクサいセリフを吐きつつ、大内宿へ。ここでは歴史街道と土産屋の活気にあふれうる家並みを眺め、さらにまったりモードに浸りつつ、会津若松へと向かった。
大内宿から続く県道は、途中からご機嫌なワインディングとなった。天国だね、ここは。その夜は、東山温泉に泊まった。部屋に忍び込む湯川のせせらぎに、またしても清涼感満腹。朝には雨かと思ったけど。 |