ハッシュタグ カワサ菌補充のカスタム・ツーリング情報1件

Ninja ZX-12R

仕事の夜勤終わり、空を見ると久方振りの青空が広がっていた。
数週間ぶりのツーリング日和。

今日も夜から仕事、遊びに行けば、
まず間違いなく仕事に支障をきたす。
もう若者とは呼ばれぬ年月を重ねた体、ツケはすぐに回ってくる。それも何倍にもノシを付けて……

しかしだ。
今日を逃せば、また気分も晴れぬ鈍重な曇り空と、さめざめと降りしきる雨の日々に逆戻り。
「さて──」
どうしたものか？
サラリーマンの理性とライダーとしての本能がせめぎ合う。
頭に愛車の顔が浮かぶ。
「行くか」
「仕事は明日も出来る、バイクは今日しか出来ぬかもしれぬ」
ライダーの本能に従うことにした。

家へと帰り、軽くシャワーで体を清める。
あらかた社畜の鎧と匂いを洗い流す。そしてライダーとして自分を改める。

眠りこけている愛車を叩き起こす。
数週間ぶりの始動に、生ガスとオイルの混じったガソリン臭が辺りに立ち込める。
それらを飲み込むように深呼吸。
出発。

燦々と照りつき肌を焦がす太陽、体にまとわりつく生ぬるい風、股と太ももをジリジリと炙るエンジンの熱気。
渋滞にハマりながら走る。
走る走る、止まっては走る。遅々として進まぬ道中に苛立ちが募る……
「あぁ、これなら寝ときゃ良かったか」
滴る汗を舐めて愚痴をこぼす。
空を見上げ、照りつける太陽を睨む。
前方のトラックからサービスで黒ガスを賜った。

開けた前方、思いっきりスロットルを開ける！
跳ね上がるタコメーター、次いでスピードメーターも跳ねる。
脳が置いていかれそうな加速、日常から非日常へと吸い込まれていく。
轟音とヒビリミッターの渦中、メーターの針が指す数字を一瞥。
ヘルメットの中、ニンマリと気色悪い笑みを浮かべた。

いつもの撮影場所。
クラクラと眩暈にも似た感覚に襲われ、バックを漁る。
持ってきていた水筒のお茶をガブ飲み、煮えたぎる体に冷たいお茶が流れ込む。
陽炎を上げる愛車の横に腰を下ろす。
サワサワとそよぐ木々、往来する車、遠く聞こえる町の喧騒。
冷えた水筒を額に当てて目を閉じる。
しばし時間を忘れる。

どれくらい時間が経ったであろうか？

「さて──！」
勢いよく目を開ける。
帰るか、と呟いて残っていたお茶を飲み干す。
ヘルメットを被り顎ひもを絞めて、帰り支度を整える。
愛車が短い雄叫びを上げて始動する。

また来よう。
そう呟いて、来た道を戻っていく。
帰り道はゆっくり帰る、麗しのバイクとの蜜月。
急いで帰るには勿体ないから。
ふと正午を告げるサイレンが聞こえた。
苦笑。
頑張れ夜の俺、サラリーマンの俺よ。
鎌首をもたげるツケ、
請求は8時間後の俺名義で頼むわ。


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