Tさんが投稿したツーリング情報

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    ※今回は長いです。しかもモノローグの小説調になってしまいました。興味のない方は写真のみお楽しみ下さい🙇🏻



     ドアを開けると、初秋の北海道の朝は肌寒かった。

     薄暗いガレージから、苦労してカワサキの大型バイクを引っ張り出す。

     着慣れた革ジャン、グローブ、ヘルメット。

     ひととおり装備に身を包み、バイクにまたがりサイドスタンドを蹴り上げる。カタン、という音が、眠りから醒めつつある街にこだました。

     一呼吸おいてから、チョークを目一杯引きセルボタンを押した。GPz900Rから連綿と受け継がれる水冷1200ccはあっけなく目覚め、不機嫌そうにアイドリングを始めた。

     気温が低いので少しエンジンを温めたかったのだが、カーテンを引いた家並みが気になり、追われるように走り出す。冷え切ったエンジンを温める事を心がけ、ゆっくりと街を抜けた。

     空気が澄んでいるせいか、いつもより空が高い気がした。

     街並みがとぎれるのを見計らい、スロットルを大きく開けると冷たい風がスタンドカラーの襟元から入ってきた。ふいに冷たい手を差し込まれたようだ。首をすくめ、信号待ちでボタンを留める。

     湿り気を帯びた朝の空気をかき分けるように走り、新栄の丘にたどり着いた。

     昨夜降った雨のせいで、木製のベンチは湿っていて座ることができない。バイクを眺めながら休憩をしたかった。これはバイク乗りの性だ。

     しばらく思案した僕は、駐車場の歩道ぎわにバイクを止めた。イグニッションでエンジンを止め、サイドスタンドを下ろす。グローブを外し革ジャンのジッパーを下げた。

     ヘルメットを脱ぐと、思ったより風が冷たかった。

     白ちゃけた歩道のコンクリートに腰かけ、インナーイヤータイプのヘッドホンを取り出しihoneに接続する。音楽アプリを開き、曲を選びスタートボタンをタップする。

     秋の朝日を浴びた僕は、音楽に包まれた。

     体の一部のように使い慣れたペアスロープのウェストバックから小さなステンレスボトルを取り出して口を開ける。中には、家で淹れてきたコーヒーが入っている。美英の丘に、名古屋でローストした豊潤な香りがゆっくりと溶け出していった。


     最近僕は80年代のロックばかり聴いている。10代から20代に聴いていた音楽だ。それを何度も懐かしみながら聴いている。まるで少ない藁をいつまでも反芻する牛のようだ。

     メロディとは不思議なもので、記憶と深く結びついている。昔のヒットソングを聴くと、ふいに忘れていた記憶が細部まで生々しく思い出される事がある。たとえ、それが悪い記憶であったとしてもだ。

     僕は二十代の頃に戻りたいのだろうか。確かに今の世の中でこの年齢は生きにくい。人並みに悩みもある。しかし、それが人より顕著だとも思えない。

     人は老境に差し掛かると昔の事ばかり思い出すと言うが、今の自分がそうなのだろうか。死ぬにはまだしばらく間があるとは思うのだが‥。

     そんな事を考えるともなしに、ゆっくりと時間だけが過ぎてゆく。


     ザ・プライペーツ スピーク・イージー      1989年リリース

     昭和が終わった年のアルバム。正確には昭和は1989年1月7日まで、翌1月8日からは元号が変わり平成となる。だから、6月リリースのこのアルバムは昭和と平成両方の空気を含んでいる。


     このアルバムをリアルタイムで聴いていた頃、僕は二十歳の若造だった。他人よりも抜きんでた能力などひとかけらも持ち合わせておらず、おまけにいつも金に困っていた。

     そんな、お先真っ暗な僕だったが、不思議と将来に対する不安はなかった。将来は常に明るくなるものと信じていた。いや、そんなふうに思ったことすらなかった。冬が来れば雪が降るように、当たり前の事だと思っていた。

     あの時代の空気感がそう思わせていたのだろうか。それとも、若さとは常にそういったものなのだろうか。

     もう、今となってはどちらでも構わない。ただ、懐かしいだけだ。

     アルバム中の一曲 Time waits for no one

     この曲のフレーズにこんな一節がある。

    『ただ、わがままに振る舞う事が、自然に生きる事だと思っていた』

     僕は、これが若さの本質だと思っている。

     歳月人を待たず。


    ※ザ・プライペーツは現在もインディーズで活躍中です。ボーカルの延原達治の息子はオカモトズのドラマー オカモトレイジ。才能は遺伝するのか、カエルの子はカエル?


    最後までお読みいただきありがとうございます。多謝。

     
     

     

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