車体パーツの大半が新規設計だったり、05〜06年型GSX-S1000用を基盤とするエンジンに改良が加えられていたりするものの、7月から国内発売が始まったGSX-S1000/Fは、GSX-R1000をベースに開発されたスポーツネイキッド/スポーツツアラーである。こういった生い立ちの車両に対して、僕はときとして“デチューン版”とか“廉価版”といった雰囲気を感じることがあるのだが、GSX-S/Fの場合はストリートバイクとしての最適化が実に巧みで、ネガティブな感触は微塵も抱かなかった。
その最大の魅力は、GSX-Rに通じる操る手応えと爽快感が、GSX-Sでは助走部分に過ぎない速度域からしっかり味わえることである。GSX-Rが本領を発揮する速度域を100〜300km/hとするなら、GSX-S/Fは50〜250km/hといった印象で、超高速域での性能をある程度切り捨てた代わりに、低中速域でマシンとの濃密なやり取りが行える。文字にすると簡単だけれど、こういった真摯な作り込みが感じられるスーパースポーツの派生機種は、世の中にはほとんど存在しない。
なおネイキッドのGSX-Sを基準に考えると、車重が+5キロの214キロとなり、その増加ぶんとフルカウルの空力を考慮した前後ショックを採用するFは、傾向としては安定性重視。とはいえ、GSX-R譲りの軽快かつ忠実なハンドリングが味わえる点は、いずれにも共通する要素だから、GSX-Sの資質に惹かれているライダーなら、どちらを選んでも後悔することはないだろう。
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