一見しただけではマイナーチェンジ仕様と思えるものの、新型ムルティストラーダは、従来型とは完全な別物である。と言っても、スポーツ/ツーリング/アーバン(市街地)/エンデューロという4つの要素が楽しめる、“4 BIKES IN 1”というコンセプトは従来型と同様だし、ハイテク電子制御を積極的に導入する姿勢に変わりはない。だが、大幅刷新を受けた新型ムルティは、ドゥカティならではの運動性と爽快感を維持したまま、驚くほどフレンドリーでイージーなバイクに進化を遂げていたのだ。
その新型ムルティで僕が最も感心したのは、2輪車世界初の連続可変バルブタイミング機構(DVT)を導入したエンジンの柔軟性である。近年のドゥカティ各車のエンジンは、年を経るごとに扱いやすくなっているものの、新型ムルティの場合は扱いやすいを通り越して、エンジンと乗り手の意識が直結しているかのような印象で、どんな状況でもストレスを感じない。その印象は足周りについても同様だ。各部の構成を一新したサスペンション(DSS)の調教は見事で、動き出しのしなやかさとストローク後半での踏ん張りを、ここまで高いレベルで両立したセミアクティブサスは、他にないんじゃないかと思えるほどだった。
至れり尽くせり、という表現は適切ではないかもしれないが、新型ムルティはドゥカティの真摯さが存分に感じられるバイクである。その姿勢に感心した僕としては、既存のLツインユーザーやアドベンチャーツアラー好きだけではなく、あらゆるライダーにこの乗り味を体感して欲しいと思っているのだ。
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