たしかに下地はあった。それをつくったのはホンダ。日本国内では12年2月から展開してきたNC700シリーズ(14年には750へ進化)は、最初に登場したNC700Xで約65万円という衝撃的な低価格を実現して、一躍話題のバイクとなった。もちろん、その価格を実現するため、性能や装備はベーシック。乗り味を含め、賛否両論が湧き出たが、いずれにせよ市場の目は、日本ではずっとマイナーだったこのクラスに向くことになった。 そこに新登場したのが、ヤマハが昨年8月に放ったMT-07だ。 排気量は689cc。並列2気筒エンジンで700cc前後の排気量を持つバイクというのは、5年前の国内仕様ラインナップにはほとんどなかった。逆輸入車や海外メーカー製モデルには、このクラスの機種が多くあったが、どちらかといえば日本市場では「ツウの選択」だった。乗る人が少ないということは、周囲に体験者と生の声が少ないということ。だれもが、「きっと日本の公道で乗ったらジャストサイズで、利点がいっぱいあるはず・・・」と思いながらも、5年前はほとんどのライダーにとって想像の域をでなかった。 しかし、廉価を武器に市場へと食い込んだホンダNCシリーズによって、知らないからこその敬遠、食わず嫌いは解消された。この排気量帯が持つ魅力が世間にじわりと浸透し、同時にユーザーがこのクラスに求めるものも見えてきた。 MT-07が掲げたのは、『普段着感覚で楽しめるライディングの楽しさ』と『バイクのある豊かな生活を楽しめるスマートでファッショナブルなスタイリング』だ。これは、NC700系がテーマとした『常用域で扱いやすく快適で、燃費性能に優れたミドルクラス』とは少し異なる。もちろん、スポーツモデルの大前提として、ホンダも操る楽しさを狙っていた。しかし前面に押し出したのは、扱いやすさと燃費性能。やや消極的だった。対してヤマハは、NCと同じく低価格を実現しながら、スポーツ性を軸にアピールしてきた。 実際、MT-07が持つファンライド性能は驚異的だ。この実現に大きく貢献しているのは、同じロードスポーツ系となるホンダの先代NC700Sと比べて32kgも軽い車重。そして、73馬力とパワフルなわけではないが、アクセル操作に対してリニアなエンジンフィーリング。ゲタにもスポーツ車にもなる。そして、そのどちらもが気持ちいい。こういう存在のバイクは稀有である。 年間販売台数で比べてしまうと、8月下旬発売のMT-07には不利である。しかしそれでも、9月だけで475台、10月には325台を記録したMT-07は、小型二輪車全体の販売台数において、年間トップ5に食い込もうかという勢いだ。
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